中国にはアメリカの西部開拓時代を想起させるものがある

  中国国務院が5日に開いた常務会議で「安定した経済成長を維持するため」として打ち出した10項目の内需拡大策について、香港紙・明報は「中国史上最大規模の景気刺激策」との表現で伝えた。株価や小売の低迷など不景気感が広がる香港でも「中国マクロ調整策の徹底的な政策転換」(同紙)は大きな期待を持って報じられている。

  今回発表された内需拡大策は低所得者層向けの賃貸住宅の建設促進や農村のインフラ建設、鉄道・道路建設などによる交通網の整備、医療・教育事業の発展推進、環境対策、ハイテク産業とサービス産業の発展推進、四川大地震被災地の復興、国民の所得増、増値税改革による企業減税、銀行の融資制限撤廃など、広範囲に及ぶ。2010年末までに4兆元(約57.5兆円)を投じる計画で、まず、08年第4四半期(10−12月)中に1000億元を中央から拠出して対策を急ぐ。

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=1110&f=business_1110_022.shtml

低所得者層向けの賃貸住宅の建設促進や農村のインフラ建設、鉄道建設、国民の所得増、銀行の融資制限撤廃など広範囲に及ぶもので、2010年末までに4兆元(約57.5兆円)を投じて対策を急ぐ。

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=1110&f=business_1110_003.shtml

リセッションの原因

 今世界はリセッション(景気後退)への一歩を踏み出している。リセッションとは不思議なもので、世界の生産性が余剰するために起こる。それはどういうことか。
 このたびの金融危機では、消費・設備投資の急速な減退を招くことが予想される。企業のバランスシートはモノを売れないために急激に悪化することになる。つなぎ融資を受けたいが、金融機関自身も保身でいっぱいいっぱいであるために借り入れも難しい。出口と入り口からのダブルパンチを受け、健全な企業であっても倒産しかねない。手形決済が滞れば連鎖倒産も起こるだろう。企業は人員を削減し、人件費を削る。それに伴って、失業者の増加と個人消費の落ち込みが起こる。これから必ずくる未来だ。
 これらはすべて、生産性の余剰によるものだといえる。モノをたくさん作る力はあるが、消費されないために規模を縮小せざるを得ないということだ。縮小された結果あまった人員は、更なる縮小を生み、経済は負のスパイラルに落ち込むことになる。急激に落ち込んだ消費(あるいは急激に膨らんだ生産)を、社会はまだ適切に吸収することが出来ない。

リセッションへの対応

 教科書的に見れば、リセッションには公共投資が最適だ。
 しかし、公共投資を行っても効果が薄ければそれは無駄遣いと呼ばれることになる。日本は社会インフラが整いすぎるほどに整っていて、世論はこれ以上の公共投資を望まないし、政治家としても資金を獲得する大義名分を見つけることが出来ない。大規模な公共投資を実施するには、決定的に社会インフラへの需要が足りない。
 公共投資によって全員がハッピーになる条件は、全員が決定的な不足を認識している状態で、その不足を解決する労働力が余剰している状態だといえる。人々は整備される社会インフラに豊かな未来を見ることができる。

全員がハッピーになる条件がそろっている中国

 先進国と比較すれば、中国は未開のフロンティアを多く持つ国といえる。
 工業の発展には、電力と水そして輸送手段が必要だが、中国では誰の目にも明らかにこれが不足している。しかし中国は、このように相対的に不利なインフラを持つ工業国でありながら、先進国との賃金格差を利用して、比較的低い生産性にもかかわらず優位性を発揮した。それは貿易収支に反映され、膨大な外貨準備高を保有するにいたった。
 今世界のリセッションによって、労働力の余剰が予見されている。逆説的には、中国にインフラ投資をするだけの資本と労働力が降って沸いたとも言える。先進的な工業国になるために、ただの世界の工場で終わらないために、中国は今動き出す機会を得たといえる。
 中国はこのチャンスを適切に利用しようとしている。それが最初に挙げた大規模な公共事業の実施計画だ。

かつてのリセッションを振り返れば

 19世紀に入り産業革命が起こって以降、世界は8~12年周期で好況不況をくりかえした。このときも、産業革命による生産性の急激な向上による生産性の余剰が、需要と供給のアンバランスを起こしリセッションを生み出した。
 時を同じくして、アメリカは西部開拓時代を迎えることになる。ヨーロッパから多額の資金を借り入れ、移民を呼び込むことで、はじめはビーバーの毛皮を、そして金脈を求めてフロンティアを次々開拓した。人口の急激な増加と、ヨーロッパからの投資の増加はマンハッタン島の地価を高騰させ、鉄道会社や海運会社の激しい仕手戦をくりかえす原因となった。
 しかし、このどんちゃんさわぎによって、アメリカのインフラは整備され、広大な土地を穀物や綿の生産地とすることで、ヨーロッパに対する債務をあっという間に返済し、鉄鋼生産量や化学その他さまざまな工業製品生産量で世界首位の座を獲得していくことになった。
 今の中国が期待される役割は、ドル以後の基軸通貨はどうなるのかという問題を含め、当時の西部開拓時代のアメリカに類するものであると思わずにはいられない。